《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

人気を集める韃靼(ダッタン)ラーメン

第十五回 片山虎之介

東京・池袋駅の西口から徒歩10分ほどのところにあるラーメン店『一秀』。池袋駅西口から徒歩10分ほどのところにある韃靼ラーメン『一秀』の店舗。看板に大きく韃靼ラーメンと書いてあるのは、蕎麦アレルギーの人に、ここのラーメンには蕎麦が入っていることを認識してもらうためだという。ここで供する「韃靼ラーメン」が、ラーメン好きの間で評判になっている。

韃靼ラーメンという名前は、初めて聞く人も多いだろう。中国が原産の韃靼蕎麦をラーメンの麺に練り込んだもので、『一秀』オリジナルの商品だという。

早速、訪ねて、味わってみた。

注文したのは「特製ラーメン」。この店、一番人気のメニューで、売り上げの約6割は「特製ラーメン」が占めるという。

運ばれてきた丼の中、スープの表面は一面に豚の背脂が浮かび、白い雪原のようだ。麺も、その下に沈んでいて、姿が見えない。かなり脂っこそうだ、と思っていたら、カウンターの中から店長の平山雄一さんが食べ方を説明してくれた。

韃靼蕎麦を練り込んだ韃靼ラーメンの「つけ麺」。背脂の食味を
軽く仕上げるコツは、脂を酸化させないことだという。「良くかきまぜて食べてください。タレが下のほうに沈んでいますから」

箸で雪原をさぐると、出てきたのは、褐色の麺だ。韃靼蕎麦の十割蕎麦に近い色をしているので、どのくらいの比率で韃靼蕎麦を練り込んであるのか聞いたところ、さほど多くはないという。色が濃いのは、醤油をベースにしたタレの色が染み込んだものらしい。

言われた通り、良くかき混ぜ、麺を数本、口に運ぶ。

やや固めの麺。かなり濃いめの醤油のタレ味。コショウ、にんにくの香りと刺激が、背脂の甘味とまざりあって口中に広がる。麺を噛むと、普通のラーメンとはちょっと違う、もちもち感がある。脂がしつこいのではないかと思ったのだが、食べてみると意外にさっぱりしている。醤油の味が強かったためか、韃靼蕎麦特有の苦みは感じられなかった。

平山雄一さんに、韃靼ラーメンを始めた経緯を聞いた。

「ラーメンに入れる背脂は、こってりした美味しさを出すには必要なのですが、これをもっと健康的なイメージにできないものかと考えて、たどりついたのが韃靼蕎麦でした。健康に良いルチンが、普通の蕎麦の100倍もあるなら、これを麺に練り込んでラーメンを作ったらどうだろうと思ったのです」

製麺業者に特注で作ってもらい、創業時からメニューに載せた。一応、韃靼蕎麦を練り込んだ麺と、普通の麺の2種類を用意したが、開店してみると、ほとんどの客の注文は、韃靼蕎麦の麺に集中した。普通の麺を頼む人は一ヶ月に一人程度。韃靼ラーメンは圧倒的な支持を集めたのである。

私、片山がこの韃靼蕎麦の故郷、中国の四川省や雲南省を取材したのは、今から11年をさかのぼる2000年のこと。当時はまだ一部の専門家をのぞいて、ほとんどの人が韃靼蕎麦という名前を知らなかった。取材をもとに、中国や日本の研究者にご協力いただき、『不老長寿のダッタン蕎麦』(小学館)と、『ダッタン蕎麦百科』(柴田書店)という本を書いたところ、瞬くうちにダッタン蕎麦の名は全国に広まった。特にダッタン蕎麦茶は大ヒットとなった。肝心の韃靼蕎麦の麺は、美味しく作ることが難しいためか、普及度はもうひとつだ。

しかし韃靼蕎麦は、これからの時代の商品だと思う。自然が破壊され、汚染され、人々の健康志向は、日を追うごとに強くなっていく。この流れが逆戻りすることは、まず考えられない。

韃靼蕎麦は、パンに焼いたり、スープに入れたりするが、最も一般的に行われるの
は、蕎麦がきに似た形にしてから、包丁でスライスして食べる料理だ。日本から遠く離れた中国・四川省に暮らす少数民族のイ族は、韃靼蕎麦を主食にしている。一日三食、この蕎麦を食べるのだ。

イ族には高血圧症や糖尿病などの生活習慣病がほとんど見られない。日本と食事の内容が違うことも理由のひとつだが、彼らが主食としている韃靼蕎麦が健康維持に役立つことは、各国の研究者によって明らかにされている。

この希有な食材の真価を引き出し、さらに韃靼蕎麦が持っている健康食というイメージを活用すれば、新しいヒット商品を生み出す可能性は十分にあるといえるだろう。


一秀
東京都豊島区池袋本町2-1-1 03-3985-3349

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