《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

売り上げの7割を占めるけんちんうどん

第八回 片山虎之介

福島県の猪苗代町から郡山市に抜ける国道49号線沿い。曲がりくねった急坂が続く中山峠の『鞍手茶屋』に、一日の売り上げの7割を、この一品で占めるというほどの人気メニューがあると聞いた。いったい、どういう料理なのか、興味津々で訪ねてみた。

料理の名前は「けんちんうどん」。大きな丼に、台のうどんが見えないほど、たっぷりと野菜などの具が乗っている。にんじん、ごぼう、じゃがいも、いずれもごろんと大きく切ってある。

具材を箸でよけてみると、その下には、これまた太いうどんが、味噌の色の汁から顔をのぞかせている。太いというより、幅広といったほうが適切だろう。うどんの幅は、幅広のものと、それほどでもないものと、いろいろなものが混ざっている。しかし厚さは一定なので、煮上がりにムラはないだろう。

味噌蔵と相談して作った特製の味噌の味が、このメニューの命。

食してみると、麺にはしっかりコシがあり、サクサク歯切れが良くて食べやすい。麺の幅に広い狭いがあるため、一見、家庭で素人が作ったうどんのようにも見えるが、そこが逆に、いかにも手作りといった、好ましい雰囲気を生み出している。

汁には野菜の甘みが、しっかり溶け出し、にんじんも程よく煮えていて、歯を当てると軟らかく噛み切れる。

店舗として使っている茅葺き屋根の建物は、明治9年に建てられた会津の豪農の古民家を移築したもの。平成21年に屋根を葺き替えたが、茅集めなど1年の準備期間を要した。

けんちん汁はもともと、鎌倉の建長寺で修行僧が作っていたものが広まった料理だといわれ、醤油で味付けされることが多い。しかし『鞍手茶屋』の「けんちんうどん」は、味噌で味付けされている。やや甘めの味噌のせいだろうか、なんとも優しい印象を受けるうどんだ。

土間であった場所は板の間に改築され、馬の鞍が展示されている。

料理長の加藤美智雄さんに、「けんちんうどん」の人気の秘密を、うかがった。

「具材は大きめに切って、大きな鍋で2時間ほど煮ます。何回もかき回しているうちに角がとれて、面取りをしたような形になるのです。味もよく染み込んで、食べやすくなります。うどんは切り損なったような太いうどんになっていますが、最初から幅の広いうどんを作ろうと意図してやっています。あまりにも幅の広すぎるものが、ときどき入っているのは、私が修行不足で包丁が飛んじゃったせいです(笑)。特に気を遣っているのは、味噌ですね。当社の社長が、喜多方市の味噌蔵さんと相談しながら、けんちんうどんに合う特製の味噌を作ってもらっているのです。味噌の麹を、普通よりも贅沢に使っていると聞いています」

うどんのほか、餅、定食など、多彩なメニューが用意されている。写真は8種類ほどある餅のメニューの一部。左上から時計回りに、「うぐいすもち」「あんこもち」「ごろへいもち」。

うどんは製粉所から小麦粉を仕入れ、練ったあと、夏は4〜5時間熟成させる。その後、のしてから冷蔵庫に入れ、一晩寝かせて翌日仕上げる。冬は6〜7時間寝かせ、それをのして、冷蔵庫には入れずに一晩熟成させる。翌日仕上げると、うまいうどんが出来上がる。

手間を惜しまずに作ったこのうどんを目当てに訪れる客は多い。休日などには「けんちんうどん」だけで、150食を越える売り上げがあるという。うどんを茹でるのに20分から25分ほどの時間がかかるので、客を待たせないためには、注文が集中する昼時など、供し方に工夫が必要になる。

「だいたいお客さまの流れは予測できるので、土曜、日曜の昼時は、お客さまがいらっしゃることを見越して、事前に茹で始めたりします」

古民家を移築した座敷で味わう野菜たっぷりの「けんちんうどん」は、日増しに寒さを増すこれからの季節、何よりの御馳走となることだろう。

東京の大手町と霞ヶ関にも『鞍手茶屋』があり、「けんちんうどん」は両店でも、人気のメニューとなっている。

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