そばの散歩道


第24回 海苔

ぱりぱりの食感も爽やかだけど、しっとりなじんだ味もまたおいしい

向笠千恵子(フードジャーナリスト、エッセイスト)

 現代のようなシート状の海苔が発明されたのは、ざっと300年前、浅草でのこと。再生紙の浅草紙のつくり方をそのまま海苔に応用したのである。

 江戸時代以降、海苔は大森、品川の江戸前の海の特産だったが、埋め立てのせいで、今は木更津が産地である。

 東京からアクアラインを走って、やがて海の上に出ると、左右の海に海苔ひびが針のように無数に突き立っている。ここは、盤洲干潟と呼ばれる遠浅の海。

 収穫は初冬から。手で摘んだのは今や大昔のことで、ホースで吸引したり、回転刃で摘み取ったりのほか、もぐり船も普及している。これは海苔網の下に船をもぐりこませ、垂れ下がった海苔を次々に回転式カッターで刈り取る最新技術である。

 海苔を収穫したら、すぐに洗い、刻んで、乾燥機にかける。あとは機械がやってくれるが、その日の海苔に合った乾燥加減や塩気、厚みなどは、熟練漁師の目できっちりチェックしなければならない。

 地元では出来立ての海苔は太巻き寿司にするのがごちそう。農水省の「農山漁村の郷土料理百選」にも選ばれた料理で、極細の細巻きを何本もつくり、切り口が花や蝶の柄になるように組み合わせて、太く太く巻きあげる。いわば金太郎飴の海苔巻き版で、具にはかんぴょう、しいたけ、漬け物などのお決まりのほか、特産の青柳の煮付けも加える。細巻きの分だけ海苔の分量が増え、しんなりとするから、味のミックス加減がまことにすばらしい。

 ところで、皮肉なのは海苔の品種の変遷。長い間浅草海苔と呼ばれ、アサクサノリ種が主役だったが、この品種は味はいいものの病気に弱い。そこで、生産効率の点から、よく似たスサビノリ種が急速に普及し、全国生産量の99パーセント以上を占めるようになった。木更津の場合もスサビノリ種であり、アオノリを一緒に摘み取った青混ぜという製品で独特の風味をつくり出している。

 一方、アサクサノリ種の海苔を頑固につくっているのは有明海。佐賀市西与賀町の島内啓次さんは、海苔漁師だった父親が摘んだアサクサノリのおいしさが忘れられず、天然のアサクサノリの種を探し出して、ゼロから養殖をスタートした。

 島内さん宅で、焼きたての海苔で朝ごはんをいただいた。日にかざすと海苔が緑色に透けて見え、その八つ切りでご飯をくるんだ。さくさくっ。さわさわっ。心地よい食感のあと、海の風味が口中いっぱいに広がった。




カテゴリトップへ戻る   そばの散歩道トップへ戻る

copyright(c)1998-2010(社)日本麺類業団体連合会/全国麺類生活衛生同業組合連合会